2020/12/07

一括投資と分割投資(積立投資・ドルコスト平均法)はどちらが適切なのか?

資産運用をする際に、一度にまとめて金融商品を購入する一括投資か、何度かに分割(分散)して金融商品を購入していく分割投資かのどちらが良いかについて考察します。一括投資と分割投資(積立投資・ドルコスト平均法)の違いやメリット・デメリットからわかりやすく解説します。

一括投資と分割投資はどちらが適切か?

手元にまとまった資金がある場合、運用資金を一度にまとめて投資する「一括投資」にするべきか、資金を何回かに分けて(分散して)投資する「分割投資」にするかは投資初心者だけでなく、多くの投資家が悩むところです。本記事では、資産運用・資産形成において一括投資と分割投資のどちらが適切かについて考察していきます。また、分割投資の一種とも言えるドルコスト平均法や積立投資についても触れます。

一括投資のメリット

一括投資とは、その名の通り、運用資金を一度にまとめて投資することです。

結論から言うと、手元にまとまった資金がある場合、基本的には分割投資ではなくて一括投資が正解です。まずは一括投資と分割投資について、それぞれメリット・デメリットについて簡単に説明します。

1. 期待リターンや複利の効果を最大限得られる

最初に手元にある資金を一括で投資すると、運用資産全体が長期間にわたって運用されることになります。そのため、期待するリターンの恩恵や複利の恩恵を最大限得ることができます。これが一括投資の最大のメリットかつ、基本的には一括投資を選択する理由となります。

2. マーケットのタイミングを計る必要がない

一括投資すると、その運用資産については、その後のマーケットの動きに合わせて投資をする・しない等を判断する必要がなくなります。そして、資産運用・資産形成において「マーケットのタイミングを計る」「市場を予測する」という行為はやってはいけないことですし、そもそもマーケットのタイミングは計ることができるものではありません。万が一、マーケットのタイミングを計ることができるというのであれば、「底」で一括投資をするのが正解となりますが、ほとんどの場合うまくいかないでしょう。

3. 取引にかかるコストを最小限に抑えることができる

一括投資ではなく分割投資にすると、何回か取引をしなければならないため、その分の取引コストが増大します。ただし、現在は長期投資に適したほとんどの金融商品は販売手数料が無料であったり気にならないレベルの手数料の低さになっており、取引コストを気にしなくてもよい水準になっています。

こうした取引にかかる経済的なコストよりも、分割投資にした際の手間や分割投資にしたことで少なからずマーケットのタイミングを計ってしまう(マーケットを気にしてしまう)などといった精神的な部分でのコストを抑えることができるのがメリットと言えるかもしれません。

一括投資のデメリット

一括投資のデメリットとして、「まとまった資金が必要」「リスクが大きい」などがあげられることがありますが、実はこれらは的外れな指摘です。一括投資のデメリットとしては、以下2点です。そして、以下2点はデメリットとしてあげましたが、あまり一括投資をしない理由にはなりません。詳しくは後述します。

1. 分割投資の方がリターンが良い可能性もある

一括投資よりも分割投資にした方が、結果的にリターンが出るようなケースも存在します。(そうでなければ、これだけ多くの人が一括投資にするべきか分割投資にするべきか迷うこともないでしょう。)一括投資した直後にマーケットが大暴落してしまうケースや、長期間に渡ってマイナスの期間が続くケース、延々と下がり続けるケース、極端に暴落した後に(なぜか分割投資が終了した後に)綺麗に元に戻るケースなどです。過去の実際のデータからは、分割投資の方がリターンが出るようなケースはあまり多くはありません。「分割投資(ドルコスト平均法)」のメリットとしてよく使われる事例は、現実のデータではない極めて恣意的かつ極端なものがほとんどですので注意が必要です。(詳しくは後述します。)

2. 一括投資した直後にマーケットが暴落する可能性もある

一括投資のデメリット1でも記載した通り、一括投資した直後に、マーケットが大暴落する可能性もあります。ひょっとすると、投資をした翌日に、世紀の大暴落が起こるかもしれません。ただし、これも、分割投資をしている期間に暴落が起こらない可能性もありますし、分割投資が終わった直後に暴落が起こる可能性もあります。

一般的には、一括投資している場合の方が、暴落における精神的ダメージは大きいと言えます。一括投資の際に重要なのは、(いつ来るかはわからないけれども、ある程度の確率で起こるであろう)暴落時でも、当初の予定を変更してパニックして売却してしまったり、元に戻ったタイミングで投資・資産運用自体をやめてしまうといった行動を取らないことです。以下のアドバイスも参考にしながら、長期投資を継続することが重要です。

(参考:『これから投資を始める人への17のアドバイス』)

分割投資のメリット

分割投資とは、運用資金を何回かに分けて投資をすることです。金融商品を購入するタイミングを分けることで、一括投資よりもリターンが出たり、損失が限定されたりする可能性があります。分割投資の際によく登場する「ドルコスト平均法」というのは、一定間隔で一定の金額の金融商品を購入し続ける手法のことを言います。同じくよく登場する「積立投資」というのは、基本的にはこの「ドルコスト平均法」に基づいて長期間にわたって投資をしていくことを指すことが多いです。分割投資=積立投資(ドルコスト平均法)とすることも多く、そう考えても基本的に問題はないのですが、ここでは、一定間隔で一定金額を投資するとは限らないケースもあるため、少し分けて考えたいと思います。

なお、一括投資の際に「勘違いされているデメリット」である「まとまった資金が必要」「リスクが大きい」の反対である、「少額から始められる」「リスクが小さい」というのは分割投資のメリットとは言えないので注意してください。(一括投資も少額でもできますし、一括投資はリスクが大きくて分割投資はリスクが小さいというのは厳密には正しい表現とは言えません。)

1. 気休めになる

「一括投資に比べて分割投資の方がリスクが抑えられる」という表現は厳密には正しいとは言えません。分割投資(ドルコスト平均法)をしているからリスクが抑えられているということはありません。もちろん、一括投資に比べて分割投資の方が当初の投資金額が少ないので「リスクに晒されている金額」は少ないのですが、「ゆっくりリスクを取っている」にすぎず、リスクが小さいというわけではありません。分割投資が終了するのが近づくにつれて、取っているリスクは一括投資と同じ状態になるので、注意が必要です。特に、「分割投資(ドルコスト平均法)だからリスクが小さいはずだ」と勘違いして特定の銘柄に投資する場合は、実はリスクが過大になっているケースが多いので注意してください。

ただし、「時間を分散」することによって得られる安心感は分割投資の大きなメリットだと言えます。理論上は一括投資の方が良いと思って一括投資したとしても、その直後に暴落を迎えてしまった時の精神的ダメージは大きいです。その時に、数回に分割していたり、少なくとも高い水準で全額を投資したわけではないという安心感のメリットは想像以上に大きいものです。1回目の投資の後に、価格が下がった場合でも、「次は安く買える」とプラスに思うことができます。

2. 分割投資の方がリターンが良い可能性もある

一括投資のデメリットでもあげたように、分割投資の方がリターンが良いケースもあります。

3. マーケットのタイミングを計る必要がない(ドルコスト平均法の場合)

一定間隔で一定金額を買い付けていくドルコスト平均法の場合、マーケットのタイミングを計る必要がありません。これは、一括投資の場合のメリットと同じになりますが、分割投資(というよりもドルコスト平均法・積立投資)のメリットと言えます。

分割投資のデメリット

分割投資の主なデメリットは以下3点です。特に1点目が重要なポイントとなります。

1. 機会損失の発生

分割投資の一番のデメリットは、機会損失の発生です。一括投資の一番のメリット「期待リターンや複利の効果を最大限得られる」の反対で、この機会を逃すことがデメリットです。分割投資することによって、「本来取れるはずだったリスクを取っていなかった」期間が発生する可能性が高いです。

2. マーケットのタイミングを計ってしまう(ドルコスト平均法ではない場合)

例えば、手元に運用資金が300万円あり、これを300万円の一括投資ではなくて、100万円を3回に分割して投資しようと考えた時に、ドルコスト平均法のようにあらかじめ期間を決めている(例えば、1年に1回マーケットの状況は関係なく決まったタイミングで必ず100万円を3回投資する)のでなければ、どうしてもその時その時のマーケットのタイミングを計ってしまうでしょう。「最初に投資した時より価格が上がってきているからもう少し様子をみよう」「最初に投資した時より価格が下がっているけれどもまだまだ下がりそうだからもう少し様子をみよう」といったように、どうしてもマーケットのタイミングを計ってしまうものです。そして、マーケットのタイミングを計るというのは長期の資産運用・資産形成においては、やってはいけないことです。

3. 取引にかかるコストが余計にかかる

一括投資のメリットでも触れましたが、金融商品の買いつけに手数料が発生する場合、分割投資の方が取引コストが余分に発生します。ただ、こちらは前述の通り、最近の長期投資に適している優良な商品の多くは販売手数料も無料なものも多く、ほとんど気にしなくて良いでしょう。一括投資・分割投資に関係なく、コストを最小限に抑えるというのは投資の鉄則です。

一括投資がおすすめ

手元にまとまった資金がある場合、一括投資するのがおすすめです。(なお、ここでいう一括投資というのは、全額をリスク資産に投資する、ということではありません)。

分割投資(=ドルコスト平均法)をすることによって、最終的に一括投資の場合と比べて平均投資金額が低くなるには、分割投資の期間中の平均投資金額が最初の(=一括投資した時の)投資金額よりも低くなければなりません。つまり、最初に投資をした時から、市場が下落している期間が一定期間続いている必要があります。逆に、市場が上昇していく中で分割投資をしていくと、一括投資した場合と比べて平均投資金額が高くなります。

ドルコスト平均法の際にたまに言われている間違った説明に、「ドルコスト平均法で最終的な平均投資金額を下げることができる」というのがありますが、これは、市場が下落している場合に限る、ということになります。

ドルコスト平均法の利点を説明するグラフは要注意

ドルコスト平均法の利点を説明する多くの事例には注意が必要です。多くの場合、最初に投資をした時から価格が綺麗に下がっていき、-20%〜-30%程度下落している期間が相当期間続きます。そこからさらに、-50%〜-80%程度まで下落するというケースも多々あります。そして、後半でグラフ上の底から価格は綺麗に上昇していきます。そうした期間、ドルコスト平均法によって投資を続けると、当然平均投資コストは大きく下がります。このようなある意味恣意的・非現実的に市場が動くケースは過去のデータ上は、実際にはあまりないと言えます。

もちろん、このような状況がこの先起こる可能性はありえなくはありません。未来はどうなるかは誰にもわかりません。そして、過去のデータをいくら見たところで、今後もそれが続くとは限りません。ただ、過去のデータに基づいて考えるのは、非現実的な数字で示したグラフよりは、少しはリアリティがあるかもしれません。

過去30年のS&P500の平均リターンは11.4%

分割投資(=ドルコスト平均法)が一括投資と比べて投資コストが下がるのは、市場が下落する場合と書きました。さて、過去30年(1990年〜2019年)のS&P500の以下のデータを見たときに、今後、市場が上昇するのか下落するのか、どちらの方が起こる可能性が高いと感じるでしょうか?

・S&P500のこの30年間の平均リターンは+11.4%でした。

・過去30年のうち、70%にあたる21年はプラスのリターンでした。

何度も書いていますが、未来はどうなるかはわかりません。過去30年の平均リターンが+11.4%だからといって、今後30年はどうなるかわかりません。もしかしたら、マイナスということにもなるかもしれませんし、その可能性も十分にありえます。けれども、そういったリスクがあると認識しながらも、(特に短期的にはどうなるかはわからないが、)長期的には世界は豊かになっていく、市場は上がる、と期待して投資をしていることと思います。(そうでなければそもそも投資をするべきではないでしょう。)この期待しているけどどうなるかわからない未来に対して、自分の許容できる範囲で運用資金を投入することが、投資と言えます。

市場を予測してはいけない

過去30年のS&P500のデータに、以下の情報も加えてみます。

・平均リターンは+11.4%でしたが、+7%〜+15%に収まったのは4年だけでした(これは、大きなリターンの年が平均を押し上げているということです)。

・この30年で一番プラスだった年は+61%(2013年)、一番マイナスだった年は-49%(2008年)でした。

大きなマイナスが来る年をある程度予測できるのであれば、大きなリターンをあげられることでしょう。でも、そんなことができるのであれば、最初から分割投資(ドルコスト平均法)などせずに、タイミングを測って投資をしていることでしょう。そして、そのようにタイミングを計ってうまく投資できる人は実際にはほとんどいません。

仮に、「まとまった資金を一括投資するか10年に均等分割して投資するか」で考えると、過去30年のS&P500のデータでみたときに、一括投資よりも分割投資(ドルコスト平均法)の方が投資コストを抑えられるのは、-49%だった2008年の1〜2年前程度の時に「タイミング良く」投資を開始しているか、-30%だった2002年の1〜2年前程度の時に「タイミング良く」投資を開始しているかの場合のみです。そして、残念なことに、その場合でも、一括投資をしたか分割投資をしたかによって、平均投資金額にそこまで大きな差はありません。仮に、分割投資する期間を10年ではなく1〜2年程度にするのであれば、さらにピンポイントでこういった大暴落の年に「当てにいく」ことが必要になってきます。結局、ドルコスト平均法を使うというのは、少なからず「市場を予測」してしまっていると言えます。そして、何度も繰り返しているとおり、「市場を予測する」ことは資産運用においてやってはいけないことです。

一方で、例えば、10年前の2010年を起点とした場合、最終的な資産は大きな差となります。2010年に一括投資した場合、2019年末には資産は約4.2倍になりますが、10年間に分けて分割投資していた場合の資産は約2.5倍です。分割投資をすることによって、大きなリターンの年を逃す(=その時点の投資金額が少ない)というリスクもあるのです。

多くのドルコスト平均法の利点の事例では、一括投資した場合と比べて「お得」なグラフが紹介されていますが、現実にはそういったことが起こるケースは稀で、一括投資した場合の方がリターンが大きいケースの方が圧倒的に多いのです。分割投資をすることによって「市場が大きく上昇する年を逃す」(=平均投資金額が高くなる)リスクも負うということも認識しておくべきです。

それでも投資してすぐに市場が下落したら嫌だ

市場はある日突然暴落します。一括投資をして、すぐにそれが起こるかもしれません。過去のデータ上では、そこまで頻繁に起こることでもなさそうではありますが、何度も書いているように、未来はどうなるかはわかりません。今後も暴落する局面はほぼ間違いなくあるでしょう(ただし、それがいつなのかは誰にもわからないでしょう)。そう思うと、一括投資することに躊躇するのも自然な感情です。

投資してから資産が-30%になったら耐えられない。もしもそう思うのであれば、それは分割投資(ドルコスト平均法)で対処するのではなく、アセットアロケーション(資産配分)で対処するべきです。

一括投資というのは、全額をリスク資産に投資するということではありません。投資をする際には、自分のリスク許容度をしっかりと認識した上で、適切なアセットアロケーション(資産配分)をすることが何よりも重要です。そして、リスク許容度というのは、実際に損失を経験すると、自分が思っている以上に低いと実感することが多いです。リスクの調整は、ドルコスト平均法でするのではなく、このアセットアロケーションでするべきです。

(参考:『アセットアロケーション(資産配分)とは?』)

分割投資でも基本的には問題はない

投資をする以上は、損失が出る可能性は十分にあります。当然、そのことを認識した上で、投資は行うべきです。それでもやっぱり一括投資をして資産が減るのが怖いというのであれば(結局それはアセットアロケーションが適切ではない可能性の方が高いのですが)、ドルコスト平均法を使ってみましょう。特に、いままで投資をしていなかったのであれば、少しくらい大きなリターンを逃したところで何も問題はありません。人と比べる必要もありませんし、リターンを逃したことを気にする必要もありません。人は結局、リターンを取り逃すことよりも、損失することのダメージの方が大きいです。実際に投資をしていきながら、慣れていくしかない部分は多いです。

なお、分割投資をする際にも、分割投資が終わった後には、結局は一括投資した場合と同様に市場が下落するリスクを負うことになるということは十分に理解しておく必要があります。分割投資の第一のメリットで「気休めになる」と書いているのはそのためです。


以上、一括投資と分割投資(積立投資・ドルコスト平均法)はどちらが適切なのかについて解説しました。結論として、一括投資の方が適していると言えるでしょう。ただし、現実問題として、特に投資初心者や精神的にも安心して投資をしたいのであれば、何回かに分割して投資しても大きな問題はないでしょうし、その方がメリットもあるケースも多いでしょう。何よりも、投資を始めること、それを長期にわたって継続し、けっして市場から退場しないことが大切です。

HOME記事一覧Page Top