2022/03/23
iDeCoの節税メリットとは
iDeC(イデコ・個人型確定拠出年金)の節税メリットについて解説します。iDeCoの最大の魅力は節税メリットが大きいということです。iDeCoの「積立時」「運用時」「受取時」の3つのタイミングごとの節税メリットを、シミュレーションや受取時の注意点なども含めてわかりやすく解説しますので、参考にしてください。
iDeCoとは
iDeCoとは、2001年にスタートした、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度です。毎月決められた金額を拠出し、掛金を運用することで老後に向けた資産を形成することができます。運用は60歳になるまで行い、60歳以降に老齢給付金という形で受け取ることができるという制度です。
iDeCoという愛称がつけられたのは2016年からで、それまでは「個人型確定拠出年金」や「日本版401k」と呼ばれていました。iDeCoはつみたてNISAと同じく運用して出た利益が非課税なのに加え、掛金が全額が所得控除の対象になるため、所得税・住民税が安くなるという節税メリットの大きい制度です。
国民年金を納めている60歳未満の人であれば、一部の人をのぞき制度を利用することができます。制度改正により専業主婦(夫)や公務員の人でも加入できるようになり、2022年5月には加入できる年齢が引き上げられ65歳まで加入できるようになるなど、制度改正により加入できる人が増えてきています。
参考記事:
iDeCoの節税メリットとは
iDeCoには「運用時」「積立時」「受取時」それぞれに節税メリットがあります。以下に一つずつ解説しますので、理解しておくようにしましょう。
1. 積立時:掛金が全額所得控除
iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象となり、所得税と住民税が軽減されます。これはつみたてNISAにはないiDeCoならではの節税ポイントで、年収の高い人ほどメリットが大きくなります。年収・掛金に応じた年間の所得税・住民税の節税効果をシミュレーションすると、以下のようになります。
【年間の所得税・住民税の節税効果(運用利回りを3%と想定)】
年収 |
掛金月5,000円の場合 | 掛金月12,000円の場合(公務員の上限) | 掛金月15,000円の場合 | 掛金月23,000円の場合(会社員の上限) |
掛金月68,000円の場合(自営業の上限 |
300万円 | 約9,000円 | 約21,600円 | 約27,000円 | 約41,400円 | 約163,200円 |
500万円 | 約12,000円 | 約28,800円 | 約36,000円 | 約55,200円 | 約244,800円 |
1,000万円 | 約18,000円 | 約43,200円 | 約54,000円 |
約82,800円 | 約350,880円 |
1,500万円 | 約25,800円 | 約61,920円 | 約77,400円 |
約118,680円 | 約350,880円 |
年収300万円、掛金最小の5,000円の場合でも、年間1万円近くの節税効果があることがわかります。当たり前ですが年収の高い人だと節税効果がより高く、もし30歳で年収1,000万円の会社員の人が掛金満額で60歳まで積み立てを続けると、30年間で約2,484,000円の節税メリットがあります。また、自営業の人の場合、掛金の満額は68,000円となりますのでより節税効果は高くなります。
所得税・住民税はどうしたら安くなる?
所得税は毎月概算で支払っているので、年末に行う年末調整で所得を確定させて過不足分が12月もしくは1月の給与で還付される流れになります。住民税はその年の所得が確定してから計算され、翌年の6月~5月までの期間で支払います。
iDeCoを利用し所得税・住民税を安くするには、年末調整での申告が必要になります。iDeCoは「小規模企業共済等掛金控除」という名の所得控除の対象になっているので、年末調整の際にその年に支払ったiDeCoの掛金を申告すれば所得控除の対象となり、所得税が還付され来年度払う住民税が安くなるという仕組みです。年末調整でのiDeCo掛金の申請は忘れないようにしましょう。
2. 運用時:運用利益が非課税
通常、投資信託などに投資した場合、出た利益には税金がかかります(20.315%)。もし運用の結果100万円の利益が出たとしても、本来税引き後は80万円弱しか受け取ることができないということです。しかしiDeCoの場合は運用益が非課税なので、運用で出た利益をそのまま全額受け取ることができます。この点はつみたてNISAと同じで、より多くの人に長期の資産形成を行ってほしいという意図のもと非課税とされています。
会社員や公務員、自営業の人が60歳まで積み立てを行った場合の運用結果のシミュレーションは以下の通りです。運用益が非課税であるメリットの大きさを感じられるかと思います。
※iDeCoの掛金は月々5,000円から1,000円刻みで設定することができ、職業により月々の最大掛金の金額が決まっています。自分の掛金の上限を確かめたい方は、iDeCo公式HPを参考にしてください。
参考:iDeCo公式HP
会社員(企業年金なし)の場合
22歳、掛金毎月10,000円の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 4,560,000円 | 4,560,000円 | 4,560,000円 |
運用益 | 984,638円 | 3,929,293円 | 9,022,931円 |
運用益のうち、非課税メリット | 196,928円 | 785,859円 | 1,804,586円 |
総額 | 5,544,638円 | 8,489,293円 | 13,582,931円 |
30歳、掛金毎月23,000円(満額)の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 8,280,000円 | 8,280,000円 | 8,280,000円 |
運用益 | 1,371,449円 | 5,030,399円 | 10,861,949円 |
運用益のうち、非課税メリット | 274,290円 | 1,009,933円 | 2,172,390円 |
総額 | 9,651,449円 | 13,310,399円 | 19,141,949円 |
40歳、掛金毎月23,000円(満額)の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 5,520,000円 | 5,520,000円 | 5,520,000円 |
運用益 | 587,909円 | 2,030,946円 | 3,933,774円 |
運用益のうち、非課税メリット | 117,582円 | 406,189円 | 786,755円 |
総額 | 6,107,909円 | 7,550,946円 | 9,453,774円 |
公務員の場合
30歳、掛金毎月12,000円(満額)の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 4,320,000円 | 4,320,000円 | 4,320,000円 |
運用益 | 715,539円 | 2,672,843円 | 5,667,104円 |
運用益のうち、非課税メリット | 143,108円 | 534,569円 | 1,133,421円 |
総額 | 5,035,539円 | 6,992,843円 | 9,987,104円 |
40歳、掛金毎月12,000円(満額)の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 2,880,000円 | 2,880,000円 | 2,880,000円 |
運用益 | 306,735円 | 1,059,624円 | 2,052,404円 |
運用益のうち、非課税メリット | 61,347円 | 211,925円 | 410,481円 |
総額 | 3,186,735円 | 3,939,624円 | 4,932,404円 |
自営業の場合
25歳、掛金毎月20,000円の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 8,400,000円 | 8,400,000円 | 8,400,000円 |
運用益 | 1,652,658円 | 6,431,273円 | 14,321,849円 |
運用益のうち、非課税メリット | 330,532円 | 1,286,255円 | 2,864,370円 |
総額 | 10,052,658円 | 14,831,273円 | 22,721,849円 |
30歳、掛金毎月68,000円(満額)の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 24,480,000円 | 24,480,000円 | 24,480,000円 |
運用益 | 4,054,719円 | 15,146,108円 | 32,113,587円 |
運用益のうち、非課税メリット | 810,944円 | 3,029,222円 | 6,422,717円 |
総額 | 28,534,719円 | 39,626,108円 | 56,593,587円 |
40歳、掛金毎月68,000円(満額)の場合
運用利回り | 1% | 3% | 5% |
積立元本 | 16,320,000円 | 16,320,000円 | 16,320,000円 |
運用益 | 1,738,164円 | 6,004,536円 | 11,630,289円 |
運用益のうち、非課税メリット | 347,633円 | 1,200,907円 | 2,326,058円 |
総額 | 18,058,164円 | 22,324,536円 | 27,950,289円 |
3. 受取時:一定額まで税制優遇
iDeCoは基本的に60歳になるまで掛金を引き出すことができません。これは老後の資産形成を目的としているためで、60歳以降に「一時金として」「年金として」「一時金と年金の併用」の3つの受け取り方法から選んで掛金を受け取ることになります。そしてそれぞれの方法に節税メリットがあります。
1. 一時金として受け取る場合
一時金として掛金を一括で受け取る場合、退職所得の扱いとなり、退職所得控除という税制優遇を受けることができます。一定の金額までは非課税でそのまま受け取ることができ、一定の金額を超えると所得税、住民税、復興特別所得税がかかるという制度です。退職金の出る企業に勤めている人の場合だと、退職金とiDeCoの受け取り金額の合算で退職所得控除金額を決めることになります。退職金の多い企業に勤めている人や、iDeCoの運用金額が大きくなった人は非課税金額を超えて課税されることもありますので注意しましょう。
※退職所得控除金額の計算方法
勤続年数(掛金の拠出年数)が20年以下→40万円×勤続年数
勤続年数(掛金の拠出年数)が20年超→800万円+70万×(勤続年数-20年)
→勤続年数と掛金の拠出年数が異なる場合は、年数が長い方で計算されます。
例1:
勤続年数:10年
掛金の拠出年数:20年
退職金:500万円
iDeCoの一時金の金額:1,500万円
→40万円+20年=800万円が非課税枠となり、退職金とiDeCoの受け取り金額の合計2,000万円の方が大きいため、所得税、住民税、復興特別所得税がかかります。拠出年数20年、退職金とiDeCoの受け取り合計が2,000万円の人の場合、だいたい3つの税金の合計で130万円ほどかかります。
例2:
勤続年数:35年
掛金の拠出年数:20年
退職金金額:2,300万円
iDeCoの一時金の金額:1,500万円
→800万円+70万×(35-20)年=1,850万円が非課税枠となり、退職金とiDeCoの受け取り金額の合計3,800万円の方が大きいため、所得税、住民税、復興特別所得税がかかります。勤続35年、退職金とiDeCoの受け取り合計が3,800万円の人の場合、だいたい3つの税金の合計で260万円ほどかかります。
例3:
勤続年数:38年
掛金の拠出年数:30年
退職金:1,000万円
iDeCoの一時金の金額:1,000万円
→800万円+70万×(38-20)年=2,060万円が非課税枠となり、退職金とiDeCoの受け取り金額の合計2,000万円よりも大きいため、全額非課税で受け取れます。
ただし、iDeCoと退職金の合計金額が非課税額を超えそうでも、以下の方法で受け取ることで退職所得控除を重複して受けることができます。
60歳でiDeCoの一時金を受け取る→5年後以降、65歳で企業の退職金を受け取る
退職所得控除には通称5年ルールというものがあり、過去4年以内になんらかの退職金とみなせるもの(iDeCoの一時金等)を受け取っている場合、iDeCoの一時金と企業の退職金は合算されますが、5年が経過していれば退職所得とみなされません。そのためiDeCoを60歳時点で先に受け取り、5年後以降に企業の退職金を受け取れば退職所得控除を重複して受けることができます。受け取る順番が逆だと重複は受けられませんので注意してください。ただしこれは企業の退職金を受け取る時期をある程度コントロールすることができる人の場合取れる方法なので、すべての人が取れる方法ではありません。また、今後税制が変わる可能性も大いにありますのでその点は認識しておいてください。
2. 年金として受け取る場合
iDeCoを年金として掛金を分割して受け取る場合、受給期間を5年・10年・15年・20年の中から、年間の支給回数を1回・2回・4回・6回の中から選ぶことができます。年金受け取りの場合は公的年金の扱いになり、公的年金等控除という税制優遇を受けることができます。こちらも一定の金額までは非課税でそのまま受け取ることができ、一定の金額を超えると所得税と住民税がかかります。一時金で受け取る場合と同じく、公的年金とiDeCoの受け取り金額の合算で公的年金等控除の金額を決めることになりますので、年間に受け取る金額が大きいと非課税金額を超えて課税されることもありますので注意しましょう。ただし、こちらは60歳近くになってみないとどれくらい年金がもらえるかが正確にわからないのですが、一般的に平均年収以上の会社員だった人であれば公的年金のみで非課税枠を超えていることが多く、iDeCoの「年金受け取り」分は課税対象となる可能性が高いです。節税の面から言うと、iDeCoの年金受け取りはあまりメリットが感じられない人が多いでしょう。
また、税金とは直接関係ありませんが、iDeCoは給付金を受け取る際に一回440円(税込)の給付事務手数料がかかります。この費用はどの受け取り方法でもかかりますが、年金として受け取る場合回数が多い分費用が増えますので、その点も注意が必要です。しかし年金として受け取る場合は、すべての金額を受け取り完了するまで残りの金額を非課税で運用継続できるというメリットもあります。運用実績がよくこのままできるだけ運用を継続したい、という人は年金受取を選択して運用を継続していくのも方法の一つです。
※公的年金等控除
受け取る時点の年齢が65歳未満:年間60万円までが非課税
受け取る時点の年齢が65歳以上:年間110万円までが非課税
3. 一時金と年金を併用して受け取る場合
3つ目の方法が、一時金と年金を併用して受け取る方法です。この方法であれば退職所得控除と公的年金等控除両方の所得控除を利用できるため、節税の点から見ると一番メリットの大きい方法です。しかし、前述したように年金として受け取る方法を利用する場合受け取るごとに手数料がかかる点と、現在金融機関によってはこの併用して受け取る方法が利用できないところがありますので、その点は注意してください。
このように、iDeCoの受け取り時には受け取り方に応じて退職所得控除が使える節税メリットと、公的年金等控除が使える節税メリットがあります。どの方法が一番メリットがあるのかは人によって異なりますので、あらかじめ出口戦略をある程度イメージしておくとよいでしょう。
【iDeCoの受け取り方法】
受け取り方 | 使える税制優遇 | |
一時金として受け取る | 積立金額全てを一括で受け取る | 退職所得控除 |
年金として受け取る | 一定の金額を定期的に受け取る | 公的年金等控除 |
一時金と年金の併用 | 一部を一時金で受け取り、残りを年金として受け取る | 退職所得控除+公的年金等控除 |
節税メリットを活かしてiDeCoを運用しよう
iDeCoの3つの節税メリットについて解説しました。それぞれの節税メリットを理解して、自身の状況に合わせてうまく利用していきましょう。