2021/07/30
上場・未上場ベンチャー企業の女性役員比率とキャリアを考察
ベンチャー企業(上場・未上場)163社634名の役員の経歴データをもとに、ベンチャー企業で役員を務める女性のキャリアを分析します。ベンチャー業界における女性役員比率を明らかにし、その上で女性役員の学歴や職歴、起業経験などのデータからベンチャー企業で活躍するための道を考察します。
ベンチャー業界の女性役員の経歴を分析
女性役員の少なさが話題になることは多いですが、東京商工リサーチの行った「女性役員比率 調査結果(2018年)」によると、上場企業3,490社における女性役員比率は4.2%、女性役員ゼロの企業は2,223社(63.6%)と発表されています。
これら上場企業に対し、規模が小さく人材獲得も難しいベンチャー業界の女性役員登用状況はどうなっているのでしょうか。今回は、OpenMoneyが選定したベンチャー企業163社(上場・未上場企業含む)の在籍者のデータから、女性役員の割合や彼女たちの学歴・職歴を分析し、女性がベンチャー企業で活躍するための道筋を明らかにします。
調査・分析対象
本記事では、以下のベンチャー企業163社の代表者・取締役(社外取締役を除く)634名を調査対象とし、そのうちの女性役員の経歴に着目します。
これらのベンチャー企業は2009年~2018年に上場した企業と、2009年以降に累計10億円以上調達した企業のうち、以下の企業163社です。
イー・ガーディアン、アニコム、ネクソン、リブセンス、イーブックイニシアティブジャパン、KLab、ブレインパッド、ユーグレナ、トレンダーズ、エニグモ、モブキャスト、エイチーム、ベクトル、ライフネット生命、エムアップ、アイスタイル、オウチーノ、ブイキューブ、ホットリンク、アライドアーキテクツ、じげん、メディアドゥ、フォトクリエイト、夢展望、オークファン、オルトプラス、オイシックス、カヤック、データセクション、サイジニア、gumi、クラウドワークス、弁護士ドットコム、セレス、リアルワールド、イグニス、VOYAGE GROUP、メドピア、レアジョブ、フリークアウト、CYBERDYNE、みんなのウェディング、マイネット、オープンドア、ダブルスタンダード、ラクス、鎌倉新書、App Bank、ブランジスタ、ピクスタ、メタップス、イトクロ、アイリッジ、富士山マガジンサービス、Gunosy、ジグソー、モバイルファクトリー、Aimig、イード、ショーケース・ティービー、アイモバイル、ユーザベース、アトラエ、グローバルウェイ、PRTIMES、エボラブルアジア、アカツキ、LITALICO、はてな、ジーニー、SKIYAKI、マネーフォワード、PKSHATechnology、ウォンテッドリー、UUUM、GameWith、Fringe81、ネットマーケティング、ユーザーローカル、ほぼ日、うるる、ロコンド、Edu Lab、自律制御システム研究所、ポート、Amazia、Kudan、フロンティア・マネジメント、andfactory、バンク・オブ・イノベーション、ZUU、ログリー、メルカリ、ラクスル、HEROZ、RPAホールディングス、Preferred Networks、スマートニュース、SmartHR、FOLIO、シナモン、WAmazing、ミラティブ、Azit、ウェルスナビ、ispace、ビズリーチ、LeapMind、ヤプリ、フリー、Inagora、エブリー、C Channel、アクセルスペース、オープンエイト、Liquid、ランサーズ、プレイド、マネーツリー、MICIN、BASE、Kaizen Platform、akippa、Chatwork、メドレー、AppBrew、アソビュー、ユニファ、よりそう、TerraMotors、エルピクセル、VISITS Technologies、Cogent Labs、ライフイズテック、QUOINE、Sansan、One Tap BUY、スターフェスティバル、トレタ、フロムスクラッチ、五常・アンド・カンパニー、モンスター・ラボ、ココン、bitFlyer、Retty、Candee、favy、エアークローゼット、サマリー、Tokyo Otaku Mode、BitStar、クラウドクレジット、Viibar、ヤマップ、スペースマーケット、Kyash、VAZ、プラネット・テーブル、ファームノート、ルームクリップ、TVISION INSIGHTS、ジョリーグッド、キャディ
※注意事項※
全てのベンチャー企業の全てのメンバーではなく、一部(サンプル)であるため、本記事の分析結果が必ずしもベンチャー企業全体にもあてはまるとは限らない点、あらかじめご留意ください(統計処理によりベンチャー企業全体の傾向を推定することもしておりません)。また、データ取得期間の関係上、既に退職者が含まれている可能性もあります。
ベンチャー業界における女性役員の割合
大企業でも女性役員の少なさが問題視されていますが、ベンチャー企業でも同様あるいはそれ以上傾向が見られます。
ベンチャー企業 | 上場企業 | |
女性役員割合 | 2.7% | 4.2% |
女性代表職割合 | 2.8% | 1% |
女性役員ゼロ企業割合 | 89.6% | 63.6% |
※対象ベンチャー企業163社、在籍者634名、代表職181名
※上場企業のデータは東京商工リサーチ「女性役員比率 調査結果(2018年)」および「全国女性社長調査(2018年)」を元に作成
ベンチャー企業の全役員に対して女性役員比率は2.7%(=17名/634名)となり、上場企業の4.2%と比べ、低いことが分かりました。一方でベンチャー企業におけるCEOや社長などの代表職は男女合わせて181名いましたが、そのうち女性は5名で全代表職のうち2.8%(=5名/181名)となり、上場企業の1%よりも高いことが分かりました。また、女性役員が全く在籍していないベンチャー企業の割合は89.6%(=146社/163社)と、上場企業の63.6%に対してかなり高いです。
このことから、ベンチャー企業は上場企業にくらべ女性役員が少ない、あるいは一人も在籍していない傾向が強いことが分かりました。反対に代表職をつとめる女性役員の割合は、若干高いと言えます。
今回の調査対象のうち、女性代表職・女性役員を登用していた企業17社は以下の通りで、いずれも1名ずつでした。
アニコム、トレンダーズ、ベクトル、アイスタイル、オウチーノ、アライドアーキテクツ、オープンドア、モバイルファクトリー、ウォンテッドリー、ほぼ日、FOLIO、シナモン、WAmazing、Inagora、VISITS Technologies、トレタ、App Brew
ベンチャー企業女性役員の学歴
出身大学 | 対象者数 |
慶應義塾大学 | 3名 |
東京大学 | 1名 |
京都大学 | 1名 |
一橋大学 | 1名 |
お茶の水女子大学 | 1名 |
東京理科大学 | 1名 |
静岡英和学院大学 | 1名 |
北海道武蔵女子短期大学 | 1名 |
UCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン) | 1名 |
※N=11(学歴不明を除く)
女性役員17名のうち学歴が判明したのは11名でしたが、慶應義塾大学や国公立大学など難関校出身者がほとんどでした。修士課程を修了したのは、お茶の水女子大学で学士取得後に東京大学大学院を卒業した1名のみでした。
【高学歴なベンチャー企業女性役員の例】
FOLIO取締役副社長 リュウ・シーチャウ氏
一橋大学卒。P&G、RBで複数消費財カテゴリーのマーケティングを経て、J&J Japanのマーケティング本部長に就任。全ブランドの売上及びその収益責任を負い、かつデジタル戦略を統括する。二年間で全ブランドのマーケットシェア向上を実現した後、J&J香港の現地社長として赴任、一年間でV字回復して軌道に乗せる。
ベンチャー企業女性役員の新卒入社企業
調査対象となった17名が新卒入社した企業を見ると、一部上場企業や外資系企業に入社した人が最も多く10名でした。この中には金融機関や商社、IT企業など様々な分野の企業がありました。次に多かったのは中小・ベンチャー企業の4名です。このうち2名は新卒から現在まで、ずっと同じ企業で働いています。最後に在学中から起業している人が2名いました。
【新卒で大手企業に入社したベンチャー企業女性役員の例1】
ウォンテッドリー社長 仲暁子氏
京都大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。2年ほどで退職し、漫画家を目指した後、フェイスブック日本法人の立ち上げに参画。半年後の2010年に独立し、ウォンテッドリーを創業。
【新卒で大手企業に入社したベンチャー企業女性役員の例2】
アライドアーキテクツ取締役兼インキュベーションカンパニー長 松井裕美氏
北海道武蔵女子短期大学卒。1991年日本航空株式会社入社。2007年株式会社ディー・エヌ・エー入社。2007年トランスコスモス株式会社に入社し、自社、顧客企業のマーケティング支援業務に従事。2012年株式会社アイレップ入社、2014年同社執行役員。デジタルマーケティング戦略プランニング、データマネジメント部門の立ち上げなどに従事。2016年にアライドアーキテクツ株式会社に入社し、マーケティング事業本部・アカウント本部長として、営業、企画制作、施策運用を横断したソリューション部門を統括。2017年当社執行役員、2018年当社上級執行役員。2019年3月より取締役に就任。
【在学中から起業していたベンチャー企業女性役員の例1】
シナモン 代表取締役 平野未来氏
2006年、東京大学大学院在学中にモバイル向けソーシャルアプリ開発のベンチャーを立ち上げその5年後に売却。翌年シンガポールで創業。2016年には日本でシナモンとして再出発した。
【在学中から起業しているベンチャー企業女性役員の例2】
App Brew 取締役 松井友里氏
2013年度東京大学入学。Ashoka Japan、ウォンテッドリー株式会社等でインターン後、クラウドファンディングで得た資金で世界を巡ってスタートアップを取材するなど勢力的に活動し、2016年2月に代表の深澤氏と株式会社AppBrewを共同創業。現在はLIPSのプロダクトオーナーとしてプロダクト開発全般を担当
ベンチャー企業女性役員の起業経験者
ベンチャー企業女性役員の中で起業経験者は、調査対象者17名中6名で半分以下という結果でした。調査対象者17名のうち5名は代表者(=起業してそのまま代表者でいるケースが多い)であることを考えると、特になにか有意な数字があるわけではないと言えるでしょう。この6名の中には自らが創業した企業で今も働いている人もいれば、起業した会社とは別のベンチャー企業に参画し活躍している人もいます。
【起業を経験したベンチャー企業女性役員の例1】
アイスタイル 取締役兼CQO 山田メユミ氏
東京理科大学卒業後、化粧品の原料メーカー香栄興業に就職。在職中に、個人の趣味で化粧品に関するメルマガの配信を開始。その反響をもとにコスメ・美容の総合サイト「アットコスメ」を企画立案し、99年にアイスタイルを共同創業する。
【起業を経験したベンチャー企業女性役員の例2】
Inagora 共同創業者 山本未奈子氏
1997年UCLを卒業後、日商岩井に入社。UBS証券に転職。2007年に渡米しニューヨーク有数の美容学校を卒業した後、2009年MNC New York Inc.を設立する。2014年にキングソフト株式会社の代表取締役である翁永飆氏と共にInagora株式会社を設立し取締役となる。
【起業せずベンチャー企業に入社しキャリアアップした例】
トレンダーズ株式会社 取締役 副社長執行役員COO 黒川 涼子 氏
慶應義塾大学卒業後、大手アパレルメーカー・東京スタイルに入社。営業から店舗管理まで幅広く経験した後、大手人材派遣会社テンプスタッフに転職、販売職派遣の新規事業立ち上げに携わる。その後、化粧品会社ドクターカナコの執行役員を経て、2006年トレンダーズに入社。
ベンチャー企業女性役員のキャリアまとめ
最後に、本記事をまとめると、
1. ベンチャー企業は上場企業と較べて女性役員の割合が低い
代表職における女性の割合は上場企業に比べ若干高かったものの、女性役員の比率は低く、女性役員が全く在籍していない企業も多いです。
2. ベンチャー企業の女性役員は高学歴
対象のデータ数が少ない(N=11)ものの、慶應義塾大学(3名)、東京大学(1名)、京都大学(1名)、一橋大学(1名)、お茶の水女子大学(1名)、海外大学(1名)とほとんどが高学歴でした。
3. ベンチャー企業女性役員の半数以上が新卒で大企業に入社している
ベンチャー企業女性役員のファーストキャリアとしては大企業が最も多いということが分かりました。
4. ベンチャー企業女性役員のうち起業経験者は半数未満
自らが起業した会社で役員となる人も、ベンチャー企業へ転職して役員になる人もいることがわかりました。
以上、ベンチャー企業女性役員のキャリアをデータをもとに分析しました。
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