2022/03/25

iDeCoだけで老後2,000万円問題は解決するのか

iDeCoと老後2,000万円問題について解説します。2019年に話題となった「老後2,000万円問題」。この記事では、老後2,000万円問題が産まれた背景からiDeCoの制度を利用することで老後2,000万円問題は解決するのかという点について試算します。老後資金になんとなく不安があるという方は参考にしてください。

iDeCoとは

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、2001年にスタートした、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度です。毎月決められた金額を拠出し、掛金を運用することで老後に向けた資産を形成することができます。運用は60歳になるまで行い、60歳以降に老齢給付金という形で受け取ることができるという制度です。

iDeCoという愛称がつけられたのは2016年からで、それまでは「個人型確定拠出年金」や「日本版401k」と呼ばれていました。iDeCoはつみたてNISAと同じく運用して出た利益が非課税なのに加え、掛金が全額が所得控除の対象になるため、所得税・住民税が安くなるという節税メリットの大きい制度です。

国民年金を納めている60歳未満の人であれば、一部の人をのぞき制度を利用することができます。制度改正により専業主婦(夫)や公務員の人でも加入できるようになり、2022年5月には加入できる年齢が引き上げられ65歳まで加入できるようになるなど、制度改正によりどんどん加入できる人が増えてきています。

参考記事:

iDeCoの始め方は?口座開設の方法やおすすめ金融機関まで解説

iDeCoのメリットとデメリット・注意点

老後2,000万円問題とは

老後2,000万円問題とは、2019年6月3日に行われた金融審議会での報告書「高齢社会における資産形成・管理」が発端となっています。夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯の収支は毎月約5.5万円の赤字が生じるため、その後平均寿命までの20~30年間の不足額が1,320~1,980万円になるという試算に基づき、「老後までに2,000万円を貯めなければいけない」という報告書が提出されたのです。

この言葉はマスメディアで大きく取り上げられ、話題となりました。政府は「報告書の内容は著しい誤解や不安を与えることになる」としてこの報告書を受け取らず、のちに報告書の担当の金融庁職員が「高齢者のライフスタイルはさまざまであり、収入や支出の数字を単純に比較してこれをもって差額であると議論を始めたことは、意味のない数字を掲げたミスリーディングなものだった」と謝罪する事態にまでなりました。

政府としては報告書を受け取らずうやむやになった感じのある老後2,000万円問題ですが、マスメディアに大きく取り上げられたため不安を感じた人も多かったのではないでしょうか。


金融庁によると、その報告書は以下の前提のもと算出されています。

・夫65歳、妻60歳の時点で夫婦ともに無職

・夫95歳、妻90歳(30年後)まで夫婦ともに健在

・公的年金等の実収入額209,198円に対し実支出額263,717円で毎月約5.5万円の赤字

→5.5万円×12ヶ月×30年=1,980万円で、老後30年間で約2,000万円が不足する試算

そもそも老後2,000万円問題は存在しない?

いまも多くの人に認知されている「老後2,000万円問題」ですが、老後2,000万円問題は存在しない、あったとしても本当は2,000万円も必要ない、などの論も現在では出てきています。

そもそもこの報告書は2017年の年配層の収入、支出の平均を基に試算されています。つまり別の年の数字で見れば別の試算となり、例えば2020年の数字で見ると収入額の平均257,763円に対して支出額の平均が259,304円となり、不足額は-1,541円、老後30年間での不足額は合計55万円というデータになります。2020年のデータで見ると、老後55万円問題となるわけです。

しかし2020年は新型コロナウィルスの流行が始まった年であり、特別定額給付金(一律10万円給付)があったり、自粛で外食やレジャー費が少なかったといった特殊要因があります。つまりある一年単体でのデータを見ても、複合的な要因が絡んでおりあまり意味がないということです。大切なのは2,000万円という数字ではなく、自分のひと月の支出金額や保有資産、もらえる予定の年金額などを把握して、自分なりの老後〇〇円問題として認識することでしょう。

また、2019年の厚生労働省のデータで高齢無職夫婦世帯の平均貯蓄額は60歳時点で平均2,484万円という数字があります。60歳時点での貯蓄が2,484万円あるのであれば、もし老後2,000万円が不足するとしても貯蓄を切り崩しながら生活すれば問題はありません。今までは「老後2,000万円問題」という言葉だけが話題になり一人歩きしているような状態でしたが、貯蓄やライフスタイル、その年の状況によって一概には言えないためむやみに恐れる必要はないということです。

iDeCoのみで老後資金を貯めることは可能なのか

では、もしiDeCoの制度のみを利用して足りないと言われている2,000万円を貯めることは可能なのでしょうか。結論としては、条件によっては運用額をおよそ2,000万円にすることは可能です。

一般的な会社員の場合と、自営業の場合で運用合計額を2,000万円に近づけるように試算してみると以下のようになります。

【会社員(企業年金なし)の場合】

開始年齢 掛金 運用利回り 60歳時点の積立元本 60歳時点の運用益 60歳時点の合計運用額
22歳 23,000円 3% 10,488,000円 9,037,374円 19,525,374円
30歳 23,000円 5% 8,280,000円 10,861,949円 19,141,949円

【自営業の場合】

開始年齢 掛金 運用利回り 60歳時点の積立元本 60歳時点の運用益 60歳時点の合計運用額
30歳 50,000円 1% 18,000,000円 2,981,411円 20,981,411円
40歳 68,000円 3% 16,320,000円 6,004,536円 22,324,536円

貯蓄(現金預金)のみで2,000万円を貯めようとした場合、22歳からで毎月4.3万円、30歳からで毎月5.5万円の貯金を行うことで60歳時点で2,000万円を貯めることができます。しかしiDeCoでの運用であれば、運用利回り3%程度の期待は十分にでき(保証されるものではありません)、しかも運用益が非課税なうえ掛け金が所得控除の対象となるため、より効率的に老後資金を貯められることがわかります。

自営業の人の方が掛金の上限が高い(月68,000円)ため、掛金を高くすればリスクの低い運用でも2,000万円に到達することが可能です。しかし、自営業の人はもともと公的年金等でもらえる老後の収入が少ないという点もありますので、より手厚く老後資金を貯めておく必要があります。そのためまずは2,000万円という数字にとらわれず、老後にもらえるであろう年金の金額や活用できる制度を調べ、自分には老後いくらあれば安心と思えるかという金額を決めておくことが大切です。

逆に会社員(企業年金なし)の人の場合だと、掛金の上限は23,000円なのでもし30歳以降にiDeCoを始めるとすると利回りが5%以上にならないと2,000万円には到達しません。また、会社員よりも掛金の上限が低い公務員等の人も、早い時期から運用を行わない限り、運用額を2,000万円に近づけることは難しいです。いずれにしても、iDeCoだけだと不十分だと感じるのであれば、同じく非課税メリットのあるつみたてNISAなども併用して運用することをおすすめします。

(金融庁の資料の中にも「ライフイベントに応じて引出すことが可能なつみたてNISAと、年金制度として所得控除が認められているiDeCoとは、両者を併用することで、住宅購入などの計画的に準備が必要な支出や、病気、事故、失業などの予想外の支出への備えをしつつ、老後に向けた資産形成が可能となるものである。よって、お互いが補完しあう関係として活用が進むことが望ましい。」と記載されています。)

「2,000万円」を考えるきっかけに

iDeCoで老後2,000万円問題を解決することはできるのかという点について解説しました。インパクトがあり話題となった「2,000万円問題」ですが、この言葉をきっかけに家計を見直したり将来を考えたりすることができたという人も多いのではないでしょうか。人それぞれに老後必要となる金額は異なりますが、iDeCoもうまく活用して老後の不安を少なくしていきましょう。

参考:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』

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